HOMEPUBLICITY > 産婦人科医院の計画



1985年にわれわれにとって最初の産婦人科医院を手掛けて以来、今までにほぽ1年1件のペ一スで産帰人科医院の計画にたずさわってきた。

産婦人科医院の他科に比較しての特徴は、

[1] 病室が不可欠といってよい。厨房施設も必要となる。
[2] 外来に内診室、超音波コーナーなど、特殊な用途のためのスペースが必要となる。
[3] ナースステーションまわりに、分娩・手術室、陣痛室、新生児室、沐浴処置室、授乳室、
     当直室(仮眠コーナー)など特殊な屋が複雑に関係しつつ集まる。
[4] 母親教室、ラマーズ室、エアロビクス室といった、直接医療に関係しないサービス部門の充実も
     近年は必要とされる。
[5] 患者は女性のみで、多数を占める産科こついて見れば、年齢は若く、病人ではない。
    その結果ホテル感覚の居住性が要求されるようになる。

といった点が挙げられる

要するに一般の内科・外科などの単科病院と比べても格段に複雑な構成となる。
産婦人科医院に対する産婦人科医師の考え方についても個性的で、一人一説といってもよく、事例ごとに新たに教えられる事柄が多い。
一方、医師はそれほど多くの例を知っている訳ではない。諸室の形態や相互の関係、運営システムなどに関して計画者がいろいろな考え方を情報として流し、評価した上で決定すぺきである。

最近、特に産掃人科医院建築を評して「ホテルのような」などと言われるケースが多い。
それはそれで良い面もあるのだが、医療施設としての機能を充分に果たした上での話でなければならない。

本稿ではこれまでに経験してきた事柄を基に、特に複雑な「外来診療部」と「ナースステーション、分娩・手術室まわり」を中心に論じることにする。

また、夜間女性ばかりでしかも手薄な管理状況でのトラブルを未然に防ぐ対策についても、触れておきたい。




○診察室に入る前に、予診や採尿、計測などを行なうことになる。

●予診

診察前の予診で症状、経過、希望などを聞き出すことが多い。
予診の形態としては、
  ・予診コーナーを設けて助産婦が問診し、腹部計測などの外診も含めて行なう。
  ・受付カウンターでアンケート調査式に記入してもらう。
  ・全く行なわないで直接、医師に話す。
など、各種のレベルがある。外来患者の数や診療方針で決まってくる。

●採尿

診察前の採尿は必ず行なわれると考えてよい。
WCブースの中に尿カップのパスボックスを設けるのが、
尿をこぽす機会も少なくベストだと考えていたが、
患者から「のぞかれているような気がする」との指摘があり、
最近は個々のブースの外にパスボックスを設けることが多い。

またプース内に小さなベビーサークルを設けるようにしている。
                                (写真)






尿カップに患者の氏名を、どこで、誰が書くのか明確にしておく必要がある。
 ・受付カウンターで受付がカップに記名して患者に渡す。
 ・尿パスボックス脇に尿カップをストックしておき、患者に記名してもらう。
などの方法があり、後者の場合カウンターと説明のサインが必要となる。

●計測

診察前に、思者に自分で血圧や体重を測定してもらうケースが増している。
自動血圧測定機の普及によるもので、それなりのスペースやサインが必要となってくる。



○診察室まわりでは診察机で問診、記録が行なわれ、外診台で外診が更に、
 超音波検査、内診台での検査、注射・採血・点滴などの処置、といった行為が行なわれる。


物の動きとしては、カルテ、検尿結果、X線フィルム、血液検査の検査結果などが診察机に届く。
情報としては、点滴室・中絶後の休養室・待合室など、院内の要所を映すモニターTV、
集中胎児監視システムのCRTなどが配置されることが多い。
診察机の近くには書籍、患者に説明するためのパンフレット各種、書類各種もストックされる。
将釆は電子カルテに移行すると予想されるので、
診察机の横にコンピューター端末が置けるようなスペースもとれるとよい。

診察机に最も近くにあるべきなのは、内診室、外診台、超昔波検査コーナーである。
医師も患者も頻繁に移動するので、なるべく動線を短くする工夫が必要である。


●内診室

計画者がたよりにしがちな参考書「建築設計資料集成」(日本建築学会編 ・第4巻 ・単位空問 II ・診療p.190)によれぱ、内診室の幅は2mと明記されているが、この寸法では、現在では狭すぎる。
現在、内診室にはコルポスコープ、冷凍手術装置、経膣プローべ付超音波装置、高周波凝固装置などの
医療機器が入り込み、おまけに内診台まで回転するようになった。
その結果、幅については通常2.5mを確保するようにしている。

内診室とシンク付カウンターをはさむ通路の幅員も、「資料集成」(前出)記載の標準平面の寸法をあたると
約90cmしかなく、スタッフや医師がすれ違うのにも支障をきたす。1.2mを標準としたい。
膣内分泌物の顕徴鏡検査のため、カウンターの一画を検査コーナーとして、膝が突っ込めるようにしている。

●超音波コーナー

ほとんどのケースで外診台と兼ねている。超音波検査は、産科患者の全数が対象になると考えてよい。

超音波の機械自体に10インチ程度のブラウン管が付いているが、医師と患者が同時に見るのは不便であろうと、19インチくらいのモニターTVを天井から吊ることが多かったが、画像の説明がしにくい、圧追感 がある、などの問題点も指摘されている。
天井吊用の金物にデザインのいいものがないのも気に入らない。
密着性を高めるため、超音波用ゼリーを腹部にたっぷり塗りつけてから検査するので、その保温装置の電源、置き場所、検査後ぬぐい取るための紙タオルの置き場所なども念頭に入れておく。
画像を、装置についた機能を使ってプリントして患者に渡したり、VTRに録画して配る(VTR機材の置場を考える必要がある)などのサービスも行なわれている。

他にドップラー心音計も使われることが多い。小さいながら置き場所と電源を考えておく。
外診として必要なのは腹部を計るメジャー程度で、埋込み棚などを設けると便利である。
また、自動血圧計を使用しない医院では、外診台の横に水銀式血圧計が設置される。

●処置室

診察机の医師が、何が行なわれているのかをチェックできる位置とすべきである。
医師が出向くことは少なく、ナースの仕事を医師がチェックする形が多い。
処置のうち、点滴は別の部屋やコーナーを確保することもある。
1〜2時間にわたるので、他の患者の間診が聴こえる場所では問題だったり、外来時間外にわたる場合、
管理しづらい面も生ずるからである。
モニターカメラでチェックし、連絡は外来診察室との間でインターホンとすることが多い。

●受付

他の診療科の場合、受付は診察机に隣接しカルテが机の上の窓口からポンと出てくるようなレイアウトを考えるケースが多い。 一方、産婦人科の場合、診察机に近づきたい重要なパートが多いため、そのようなシステムは不可能な場合が多い。 しかし、患者が受付でいろいろ相談する事例は多いようで、医師としてはその相談や応答の内容も聞きとりたいとの要望もある。

したがって最近の計画では、少しは距離があるのは仕方ないとしても受付の状態を医師がある程度把握できるよう努めている。 なお受付自体のスペースは患者数にもよるが、受付カウンターは長い方がよく、3人が並んで座れて、コンピューターの端末、レジスターも配置したい。
また、将来の話にせよカルテの自動検索機のスペースを確保し、薬局に隣接、採尿室が指示しやすく、入口からわかりやすく、待合室が見わたしやすい、といった常識的なチェックポイントが列記できる。

ついでに月末のレセプト請求の作業の場所も、受付で行なうのか、別室で行なうのか、確認する必要がある。
最近の例では、工場がまわりに多くポルトガル語の患者が増え始め、受付カウンターで生理だの中絶だのと通訳を交じえて話すのが問題となり、カウンター脇に小部屋を求められたケースがあった。
各種の支払いや簡単な対応の場としても利用できる。

他に最近の話題として、プッシュホンによる自動予約システム
(「Dr.うける君」NTT−IT社など)の導入も念頭に入れておく必要がある。
患者が在宅のままプッシュホンでかけれぱコンピューターにより
診察予約ができ、合成音声で予約日時が告げられる。

産婦人科の投薬量は基本的に少なく、調剤待合の時間は少ない方である。 在院時間を短くするには、予約制を導入し診察待合を短縮するのが効果的であろう。

われわれが設計した小児科医院(若葉台クリニック)で予約システムが
導入された状況を見ると、待ち時間が減ることをメリットと感じて、
かなり遠方からも通院する患者がふえていることがうかがえる。

(写真:若葉台クリニックにおけるパソコンと連動した自動カルテ検索機)


自動カルテ検索機とリンクし、予約登録された患者のカルテを自動的に検索させることで、受付事務の仕事が軽減されるが、専用のパソコンー式を置くスペースが必要となる。

●中絶(子宮内容除去術)

最近は外来の内診台で行なう例よりも、分娩・手術室で行なう方が多い。
これは手術中にアクシデントがあっても、酸素投与や、気道確保などの対応がしやすいことによる。
しかし以前は外来で行なうのが一般的で、今でもそれを望む医師は多い。

外来で中絶を行なう場含には、中絶処置をする内診室に近接して休養室が必要となる。
患者は静脈麻酔でほとんど意識がなく、処置後1人で休養室こ行くことはできない。
ナースが両側から抱えて引きずるようにして運ぷことになる。したがってドアや通路の幅に注意する。
休養室に行く途中を他の患者に見られるのもまずい。

通常2時間ほど休養室に居ることになり、ナースコールも必要。他に酸素、点滴レールも必要で、モニターカメラでチェックすることもある。意識の戻った患者にお茶やケーキを出す例もある。
患者にとっては罪悪感に打ちのめされている時に受けるもてなしが有難く、医院としては家にもどって嘔吐されるより、ここで飲食の後、気分が悪くなるものならなってもらった方が対策が講じやすく、後のトラブルもなくなるといったメリットがある。したがって湯沸しの設備が近くに必要かもしれない。

また、洗面・トイレの設備も近くに必要かどうか打合せる必要がある。
中絶の施術には内診台に特別なアダプター「股受け」を取り付けて足を固定する。その収納についても考えておく必要がある。

●X線撮影室

一般的に、産婦人科にとってX線装置はペイしない、といわれている。
われわれが扱った産婦人科医院では、約半数が部屋を設けなかった。
もともと胎児への影響もあって撮影件数は少なく、また不妊症の患者へのHSG(子宮卵管造影法)も件数は少ないため、いきおい診察室から離れた場所に配置されがちになる。

一方、医療法では、X線撮影はX線技師または医師が照射することを定めておリ、離れた場所まで出向かねばならなくなる。超音波画像の進歩で、X線でなくともかなりの範囲をカバーできる。

以上のような理由から建て替えを機に廃止する例が多かった。
「出向いて撮影する時間が惜しいから撮りたくても撮らない」という場合の解決策として遠隔操作の方法がある。
慣れたスタッフが撮影室で患者に撮影のポジションを取らせる。医師は診察室に居たまま、モニターTVを見てチェックし、インターホンで指示を出したり患者に話しかけたりしながら、手元の照射ボタンを押す。
これで医師は動くことなく操作が完了する。この結果「うちはペイしている」というケースもある。



ナースステーション、分娩・手術室まわりも多くの所要室が集まる。



●ナースステーション

ナースステーション(NS)の機能は、

   ・入院患者に関する情報センター
   ・注射・点滴など処置の準備室

という点までは一般の病棟とかわらない。

したがって見舞客への対応や外部からの進入チェックのために病棟入口に受付が必要で、内部ではカルテ記入などの記録のためのスペースや、申し送りなど、情報伝達のための打合せスペース、血圧計、心電図、分娩監視装置などから送られる情報をモニターするスペースが必要である。

処置のためにはシンクの付いた作業カウンターや、薬品、ディスポ製品などをストックする場所も決めておく必要がある。
更に24時間管理する人がいるほとんど唯一の部屋となるため、ナースコールは当然として、他に自動火災報知機、エレベーター緊急インターホン、酸素配管の警報、受水槽の警報などがNS内に設置されることになる。
かなり大きな壁面がそれらにより占領されることを覚悟せねばならない。

以上は特に産婦人科に限らず、小規漢病院クラスのNSについて一般的に理解しておくべき事柄である。

産婦人科の場合、以上に加えて、新生児のための設備、産婦のための設備、分娩・手術のための設備が加わり、複雑極まりない構成となる。
独立した部屋をNS内にとり込むことが多いのは、調・授乳室と当直室(仮眠ベッド)である
(沐浴処置室もNS内にとり込むことが多いが、この部屋については後述)。

●調・授乳室

NSの一画として計画することが多いのは、

  ・常時使われる部屋でもないので、使わない時間、仕切カーテンをあけておけぱNSとして広く使える。
  ・別室とした場合、24時間空調(特に暖房)が別に必要になる。

といった理由からである。

面積の関係で授乳室を設けなかったケースがあったが不評で、授乳室を後に増築した例もあった。
個室病室が多く、「授乳指導は各個室で行なう」「人工乳はNSでナースが作って各病室まで届ける」という方式で行こうということだったが、

  ・同じ授乳指導を何回もやるのは手間がかかる、まとめてやりたい。
  ・深夜、ミルクをナースがつくるのは大変。

といったところが不評の理由であった。

もっとも、その轍は踏むまいと、授乳コーナーを作ったのに、結局各病室で指導や授乳が行なわれるなど、充分打合せたつもりでも動き出すと変わってしまうこともある。

NSの一画をカーテンなどで区切って授乳室にすることの問題点としては、「雰囲気が落ち着かない」という一点であろう。ナースの声は聞こえるし、カーテンで仕切るというのも安手でたよりない。
本来ならぱ落ち着いた別室としたい部屋である。
長所・短所を理解した上での判断ということになる。

調乳のための設備としてはシンク付カウンター、母乳を冷凍保存する冷凍冷蔵庫、電子レンジ、電気ポット、使用前・使用後の補乳ビンをそれぞれ保管する場所が必要になる。
手洗い、手指殺菌装置、ヘアキャップ置場などを設けた例もあり、ガウンテクニックを行なっている所もある。

●当直室(仮眠ペッド)

NSの奥まった一画に2段ベッドを設け、カーテンで仕切るというパターンが多い。
新生児室に隣接させ、ベッド脇に小窓を設けチェックしやすくすることが多い。
2段ベッドの一方にナースコール副親機、電話がならぴ、ベッドから出なくてもある程度の対応が可能となっている。
2段ベッドではなく、2人がふとんを敷いて寝られる程度の当直室をNSに隣接して設けることもある。
事務当直も実施している例があり、その場合3人当直となり、6帖の部屋を設けた場合もある。


次にナースステーション近くに別室として設ける部屋について述べる。

●新生児室

NSに隣接させ、内部のチェックが容易にできるように透明ガラスで仕切られる。
見舞客との対面も容易にできる場所とする。
対面する人は年輩の人も多いことを考え、ガラス越しに腰掛けて、カウンターに肘をついて赤ちゃんを見ることができるように考えることが多い。

新生児室の内部は、インキュベーター2台(要酸素配管)、ベッド数の半数程度のコット数が配置できるスペースが必要(コット数は出産後48時間赤ちゃんを新生児室であずかるシステムの場合で計算)。
他に手洗い、ビリルビン(黄疸)計測などの検査のためのカウンター、または机をおくスペースが必要となる。

新生児室を別室とする理由は、

  ・独立した室温管理区域としたい。
  ・赤ちゃんが盗まれにくい。

といった理由である。
清潔確保とか、感染予防といった理由は医院クラスではそれほど間題とならないようだ。
温度管理に関連していえば、空調吹出し口からのドラフト(気流)の向きや強さにも注意すべきである。
直接赤ちゃんに当っていたことが以前あった。赤ちゃんが配置されていない段階での竣工検査では、つい見のがしてしまいがちなポイントである(言い訳!)。

赤ちゃんの盗難対策としては、

  ・一般廊下側には出入口を設けない。
  ・新生児室ドアにホテルロックを装備する。

といったあたりでお茶をにごしている。

ホテルロックの評判は非常に悪い。装備した所でも日中これをまともに使っている所はほとんどない。
各ナースは鍵を持っているが、「いちいち解錠していられない」ということで、サムターンをひねって、デッドボルトを出したままにしておき、ロックできない状態にしている。
「盗難がこわいのは、ナースが1〜2名になる夜間であるので、その時さえ機能すれば良い」ということのようで、計画側もそう考えて不評を承知で図面に「ホテルロック」と書き込んでいる。
このあたり声紋なり合い言葉なりを音声認識して開錠する装置が廉価に出まわるのを待つのみ、という心境である。良い手があれば御教授願いたい。

●沐浴処置室

以前は出生直後、産湯をつかわせた関係で分娩室近くに配置することが多かった。
近ごろは体温低下をまねくという理由により、ドライテクニックで清拭だけとするため、沐浴処置室は新生児室近くにあった方が便利である。
沐浴後、ラジアントウォーマー(遠赤外線装置)下で身長・体重の計測を行なう。
計測に関しては、出生直後の赤ちゃんも行なうので、沐浴処置室へは、分娩室からも便利な場所とせねぱならない。そして計測後、新生児室で管理される。

沐浴処置室はNSの一画であってもよい。
床は濡れることも考えて、ノンスリップ性の高いものとしたい。
沐浴槽は上り湯槽として便えるので2漕式のものとすることが多く、タオルで体を拭き、おむつをあてるための処置台と、身長・体重計をのせる台が必要。
処置台に対しては保温のための小さいホットカーペットを敷き込めるようにしている。
上部に一般暖房用の遠赤外線ヒーターを設けたこともあり、提案したが事故を恐れて採用されなかったこともある。
沐浴指導をすることも多く、沐浴処置の状況を数名が横で見まもれるスペースが必要となる。

●陣痛室

2人部屋1室、1人部屋1室程度を設け、各ベッドサイドに分娩監視装置を配置、ストレッチャーでアプローチできる空間と扉のサイズを確保する。
ストレッチャーを扱うのは非力なナースであることを考え、できるだけストレートに分娩室に到達できるようにする。

また、中絶の後の休養室を兼ねることも多く、壁で囲まれた床面から30cmほど上がったプラットホームをつくり、患者はふとんで寝ることができるよう求められたこともある。
「麻酔のかかった患者がベッドから落ちるのが恐いから」というのがその理由である。

出産前に産婦は浣腸するので、便所もすぐ近くに必要。
介助することもあり、ブース内や出入口は広く確保する。
職員便所と兼用したこともあったが、患者がよく使い、臭気も問題となり(パイプファン程度ではすぐに抜けない)不評であった。
ベッドサイドに家族が付き添うこともある。分娩室がいっぱいの時、陣痛室でお産することもまれにあり、どこまで設備を整えるか、打合せが必要となる。

「全部個室なので陣痛室は不要。ギリギリまで病室に居てもらえぱよい」と言われたこともあったが、「陣痛時の動物的な叫び声が病室外に必ず洩れる」と説明し、陣痛室を設けた。
最近の事例では、「陣痛時には本人の好きな体位を取らせてあげたい」との助産婦の希望があって、ベッドを設置する他に四つんばいになったりいろいろなポーズをとれるよう広めのプラットフォームをつくったケースもある。

NSからなるべく近くに設置し、分娩監視装置、血圧計、心電図などによるチェックは必要である。

●分娩・手術室

新たな計画の際など、いろいろと新しい、または評判のよい産婦人科を見学する機会に恵まれる。
多くの場合、がっかりするのは分娩・手術室である(分娩室と手術室に分かれている場含も含めて)。

一瞬倉庫かと思うほど乱雑に置かれた医療機器、殺風景なインテリアなど。
分娩室に入った産婦は周囲を見る余裕などないように思われがちだが、陣痛には周期があり、一般的には産婦にも空間を味わう余裕がある。部屋さえつくれぱ済む間題ではない。
乱雑な機材の状況などを見ると、分娩・手術室にどのような機材が入り、どのように使われるのか、まるで無関心に計画されたように思われてならない。
一方、きっちり機材を収納すれぱ良いか、と聞かれれぱそれも間違いで、機材の買い換えや、今後出てくる新装置にも対応きるルーズさも必要となる。
最近の例では、MRSA対策の高性能の床置型エアクリーナーが、竣工半年にして新たに設置されたケースがあった。

分娩室・手術室を分ける分けない、という点では今までの例ではすべて分娩・手術室として1室で計画してきた。
その理由を挙げれぱ、

  ・手術台が予備の分娩台となり、2人同時に分娩するケースが希にある。
   その場合隣りに気を配りながら一方に当たることが1室の場合やり易い。
  ・機材の融通もつけやすい。
  ・一方を使わない場含、部屋を広く使えるし、このため緊急事態にも対応しやすい。

などとなる。
デメリットとしては、希に2人同室となった場合、他方の患者が気になるといったことくらいである。
医師、スタッフからは1室の方が便利との声が多い。

分娩台・手術台の頭部にあたる近くには酸素、ナースコール・電源を天井からぷらさげる例が多い。
酸素はリールにより天井裏に巻き込まれるのでまだ良いとして、ナースコール、電源のコードが下るのはみっともよいものではない。シーリングコラムの採用もコストの関係ではばかられる。
床付コンセントは、消毒液で床をかなり濡らしながら拭くことがあるので、不安がある。
最近のケースでは、床からターミナルとなるカウンターを立上げ、酸素、電源、ナースコールを設備した例もある。
床材は、羊水がまき散らされたり、大出血の場合もあるので、拭き掃除のしやすさと共にノンスリップ性も考慮する。天井、壁、収納家具の色彩にも注意したい。無影灯の塗装色も自由になる(輸入品は不可)。

また、スタッフや医師が思者に便をかけられることもあり(大変な仕事です!)、不潔のままではおれないので、近くにシャワー室を設けたこともある。
近年、夫が分娩に立ち合うことがあり、VTRまで取る人もいるという。
見学した例ではそのような場合、電気スタンドの照明だけの薄暗い中で分娩を行なうという医院もあった。
もちろん、いざとなれぱ全体照明と無影灯が点灯される。

●洗浄・滅菌室

分娩・手術室に隣接してあるべきで、NSからもアプローチできると便利であろう。
ここでは汚物を流し、器材を洗い、セットし、保管、滅菌、分娩・手術室へのパスボックスに保管、という一運の作業が行なわれる。外来診察室にも払い出される。

滅菌作業については外部業者に委託する場合もある。その場合、どこまで設備を整えるかは打合せによる。
普通は30cmカスト3台収容できるオートクレーブと、ガス滅菌機各1台の他、器材棚、シンク付カウンター、汚物流しが入る。

胎盤の処理については見学した例に「ディスポーザーで流す」という例もあったが、原則としては焼却処分。
一般的には、専門の処理業者が冷凍保存したものを取りにくる形式が多い。
その場合、業者が分娩部や病棟内に進入することなく持ち帰ることのできる場所に、冷凍ストッカーを設置している。



●コミュニケーション

夜間、院内にはナースが1〜2名しかいなくなる。そのために大きな病院では考える必要のない間題が発生してくる。
すなわち、ナースがNSにいない場合の間題である。その場合、居場所として考えられるのは、

   a.当直室(仮眠ベッド)
   b.分娩室
   c.病室およぴ陣痛室

の3カ所が考えられる。一方、ナースにコミュニケーションを求める時の形態としては、

   1.病室からのナースコール
   2.医師からの問い含せ
   3.NSの受付カウンターに来ての呼ぴ出し(付き添いなどによるもので結構多い)
   4.院外からの訪問者によるドアホン
   5.電話

以上のケースが考えられる。
ナースが当直室か分娩室に居る時には、ナースコール副親機、電話、外部ドアホンをそれぞれの部屋に設置すれぱ、1〜5のいずれの場合にも対応できたが、間題は病室に出向いている時で今まで対策が難しかった。
最近のメカの進歩によって、ようやく満足できる方法が見えてきた。
ナースにコミュニケーションを求める形態のうち1〜3はナースコールのシステムに乗せる。
4はインターホン、または電話のシステムに乗せる。

ナースの居場所のうち、当直室、分娩室にはナースコール副親機と電話、インターホンを設置すれぱカバーできる。
病棟対策としては、ナースコール、電話、インターホンをまとめて無線で飛ばす。
対応はコードレス電話機に似たナース移動機1台ですべて行なう(ハンディナースシステム・アイホン工業)。
コストは最高機種によるナースコールシステムに加えて、100万円ほど余分にかかる。
コストがない場合には、ポケベルタイプにすれぱ応答はできないが20〜30万円余分にかかる程度ですむ。
(表示付ポケベルにすると、不思議なことにナース移動機−交互通話できる−よりも高くなる)。

なお、院外からの訪問者によるドアホンはTV付とし、NSでモニターでチェックし電気錠で解錠するシステムとしている。
高級な各種のメカを導入することで、夜間における少人数の女性による管理をバックアップするという考え方である。

●医療情報

この数年、急速に広まっているシステムとして、コンピューター制御による「集中監視システム」と呼ぱれるものがある。
一度に4〜12人までの分娩監視装置をモニターでき、キーボード操作で医師からナースに指示も送れる。
このシステムで医師は、院長室、診察室、NS、医師の住宅のどこででもリアルタイムで胎児の心拍数や母親の子宮活動を監視できる。
当面導入の予定がなくとも、配管のコストは知れているので、とにかくやっておくことを提案している。
他に心電図や血圧計を天井裏の漏洩ケープルまで飛ぱしNSまで配線してモニターでチェックするシステムを導入することが多い。



産婦人科の建築は男性の計画者にとってまさに神秘のべ一ルにつつまれている。
外来にせよ、分娩部にせよ、稼動中の状況を見学させてもらう訳にもなかなかいかない。
話を聞くにも何か恥ずかしさがつきまとう。
本稿では、その特によくわからない部門を中心に詳しく諭じたつもりである。
そして、小規模な入院施設における管理システムについては、どこでも困っている状況なので、
対策例を挙げてみた。

患者のアメニティの部分には殆ど触れる余裕がなかった。
LDRしかリ。母親教室、妊婦体操、ラマーズ法、エアロビクス(マタニビクス・アフタビクス)などの
医療周辺分野についても、施設計画上重要なので、いずれ機会があれぱ稿を起したい。


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