Q1. なぜ高気密・高断熱か?
A: 高断熱にならない・・・
●高断熱は従来、より密度の高い、より厚みのある断熱材を壁の中に詰め込めば達成されると、
安易に考えられてきました。ところが断熱材を入れれば入れるほど断熱性が落ちる、
という驚愕のデータが集まりだしたのです。原因は壁の中の結露でした。
水を吸った断熱材は断熱材ではなくなります。
壁体内結露が問題視され始めた歴史はまだ新しいのです。 多くの設計者・工務店はこの事をよく理解していません。
大手ハウスメーカーに大きく水を開けられています。
高断熱を確保する為には壁の中に水蒸気が入り込まないようにする必要があります。
そのための高気密なのです。
住宅金融普及協会のフラット35の仕様書には「充分理解されている。」として
気密化の項目が省かれています。しかし木造建築の現場をいろいろ見れば、
きちっとした仕事がしてある所はなかなか目にしません。
Q2. なぜ増える壁体内結露?
A: 耐震性は増したけれど…
●壁体内に侵入した水蒸気がすぐに外部に流れ出てしまえば、結露は発生しにくいのです。
しかし特に阪神大震災以降、耐震性向上のため構造用合板などの大判の板材を、
土台と梁、柱に直接打ち付ける方法に変ってきました。
部屋内側も同様の理由からプラスターボードなどを柱に密着させて打ち付けます。
この方法は筋交いよりも確実に耐震性を確保できるのですが、
壁体内の通気性は限りなくゼロに近づきます。
水蒸気はプラスターボードやスイッチなどの穴を通って壁の中に入り込みますが、
外部に出ることはできません。ツーバイフォー構造もまさにこの方法による壁です。
室内から壁の中入った水蒸気は逃げ場もなく、
外気に冷やされた外壁の内側に接し壁の中で結露するのです。
耐震性能の向上が、壁体内結露の出現を促しているのです。
Q3. どう防ぐ壁体内結露?
A-1: 高気密性と通気性
●壁の室内側で高気密にすれば、水蒸気の侵入は妨げられます。
そして外壁側には室内側より気密性の低い、構造材となる板材を用い、耐震性を確保しつつ、 入り込んだ水蒸気を外壁側に逃すようにします。
これで壁の中に高密度のグラスウールなどの断熱材を入れても、
結露がないため所定の断熱性能が発揮されます。
A-2: 外断熱
●外断熱という方法もあります。外壁の外側に断熱材を張り込み、魔法瓶のように建物をくるむ方法です。
壁の中で使うグラスウールなどより断熱性能の高い、
硬質ウレタンなどの断熱板材を壁の外に張り、
ジョイント部分を気密テープでふさぐ、といった形で高気密性を確保します。
おもに発泡系の断熱材を使うので、気密層は不要となります。
壁の中の温度は室内とあまり変らなくなるので結露しないのです。
でも私どもは外断熱をすすんで採用はしていません。
Q4. 外断熱をなぜ採用しないのか?
A-1:火事の時…
●外断熱材の主流は硬質ウレタンなどの石油化学製品です。
硬質ウレタンは断熱性能は抜群ですが、火事の時有毒のシアンガスを発生させます。
ウレタン以外にポリイソシアヌレートのような自消性の高い材料もありますが、
自消性があっても火炎が当たっている状態では燃えて酸欠を引き起こします。
他にも発泡ポリスチレン系の外断熱用断熱材もあります。
いずれにせよ、外断熱材の主流は石油化学製品です。
このことが地球温暖化が言われる昨今、引っかかりませんか?
A-2:外壁が心配
●構造を受け持つ壁と、風雨を受ける外壁との間に、外断熱層と通気層が配置されることになり、
外壁と構造体との間が70mm前後も離れてしまいます。
経年変化で断熱材あるいは胴縁がやせると、ビスのせん断力だけで外壁を支えることになり、
外壁の固定に問題が起きる可能性があります。従って外壁材の種類が限られてきます。
また、地震時の揺れが外壁で増幅されることによる外壁の破損が不安です。
構造壁も含めた外壁の厚みが増す(19p前後になる)ので、
外壁の後退距離が定められた地区や市街地の狭小敷地では問題になりそうです。
A-3:施工が大変だったり…
●単純な四角い箱ならば施工も簡単なのですが、庇が出っ張り窓が付き、
さらに屋根や外壁の形状が複雑になると、外断熱の切れ目が発生しやすくなります。
インナーサーキュレーションと称して、外断熱により自由度の増した壁内を、
気が循環するように作る考え方がありますが、
もし火災が起きたときは火が速く回って危険だと思います。
Q5. では壁体内での断熱(内断熱)はどうなの?
A-1:気密性能は数値で確認
●内断熱は吸水性の高い材料が多く、高気密の確保は必須です。
フィルムシートで部屋を包み込むのですが、コンセントやスイッチなど壁に開けられた穴も多く、
慣れていないと所定の気密性が保てません。
フィルムを張り終えた段階で建物から空気を吸い出して、
その抵抗値から機密性をデータとして把握する必要があります。
これはプラスターボードなどをフィルムの上に張る前に是非行うべきです。
5?/u以下の開口率(C値換算すきま係数)を満たす必要があります。
A-2:フィルムシートを張らなくても…
●関東地方以南の地域(気候の地域区分W・Xの地域)では
古紙を原料とする断熱材、セルロースファイバーの採用により
フィルムシートの施工を省略できます。
特殊な施工技術が不要となるのでこの手はよく使います。
ただし、セルロースファイバーに自消性を持たせるため、
ホウ酸を混ぜているのですが、
廃棄の時に問題になる可能性があります。
A-3:グラスウールも捨てがたい。
●フィルムシートの施工に慣れた工務店ならば、
グラスウール+フィルムシートの施工のほうがコスト的には安くなります。
積極的にグラスウールを使用する理由としては、経年変化が少ない、
(新住協とグラスウール工業会の実験で築10年以上の建物の外壁を何棟か剥がし、確認している)、
リサイクル可能(石油製品ではない)。ただし、GWもガラスを溶かすために大量の電気を必要とする。
かさ張るので輸送コストが高い、といった不利な点もあります。
A-4:内部の間仕切壁も要注意
●従来の工法では、内部の間仕切壁の中に、
屋根裏や床下の外気温に近い空気が入り込む危険性があります。
ボード1枚を挟んでの激しい温度差は結露の元となります。
土台上や天井付近の内部間仕切りには、
柱・間柱の間に必ず通気止めの部材を挿入する必要があります。
専用部材も市販されています。
■木造の高気密・高断熱についてのかいつまんだ話となりましたが、 他にも耐震構造やデザインの話など、木造建築は実に奥深く、興味は尽きません。 高気密・高断熱については大学の同窓生で名古屋の工務店の社長が私の先生で、 お互いに情報交換をしあっています。 木造建築は大学の建築学科でもあまり研究対象とならず、 伝統や慣習の陰に隠れて科学のメスが入りにくい対象でした。 私も木造に対する興味は建築史の方面からでした。 これからも科学的な木造建築のあり方に対して、アンテナを張って行きたいと考えています。
(有) 衛建築設計室・岩田 恭治
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